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2018.05.08(火)

【GPシリーズ 大会レポート】安部選手が今季世界3位の48秒68!/第34回静岡国際陸上競技大会



日本グランプリシリーズ
、グランプリプレミア「静岡大会」となる第34回静岡国際陸上が、5月3日、ジャカルタ・アジア大会の日本代表選考会を兼ねて、静岡県小笠山総合運動公園エコパスタジアムで開催されました。
 グランプリ種目として、男子6種目(200m、400m、800m、400mH、走高跳、ハンマー投)、女子6種目(200m、400m、800m、400mH、三段跳、ハンマー投)の全12種目が実施されたほか、特別種目として男子パラ100m、サブイベントとして小学生・中学生の招待リレーなどが行われました。


■男子400mH、安部選手が今季世界3位の48秒68!
 4組タイムレースで行われた男子400mHは、これまでのオリンピックや世界選手権代表選手が多数出場する豪華な顔ぶれとなりました。レースを制したのは最終の4組目で先着した安部孝駿選手(デサントTC)。昨年の日本選手権でマークした自己記録(予選、48秒94)を大幅に塗り替える48秒68での優勝となりました。この記録は日本歴代10位で、昨年のロンドン世界選手権決勝であれば4位に相当するもの。今季世界3位(大会終了時点)にランクする好記録です。
「冬場にケガなく練習ができて、スプリントが上がっていた」という状態でシーズンを迎えた安部選手。第1ハードルに向けた局面に課題が残っていたために、このレースでは「速く入るというよりは、上手に入って1台目以降にうまくつなげることを意識した」と言います。さらに、冬の取り組みによって7台目までを13歩で行けるようになったハードル間のインターバルについても、第4ハードルをクリアした段階で「走っている感じで、今日は6台目までにしたほうがいいと考えた」と、昨シーズンと同じ歩数で展開することを選択しました。これらの判断がピタリとはまって、2番手にいた岸本鷹幸選手(富士通)以下を大きくリードする形でホームストレートへ。「直線に入って10台目の手前辺りからがきつかった」と自身も振り返った通り、さすがにラストは岸本選手に追い上げられましたが、5mほどの差で逃げ切りました。
 安部選手は、この種目での2010年世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)銀メダリスト。2011年、2013年には世界選手権にも出場しており、早い年代から将来を嘱望されてきました。その後、ケガの影響による低迷に苦しむ時期が続きましたが、昨年、7年ぶりに自己記録を更新すると、日本選手権初優勝、ロンドン世界選手権では準決勝に進出する成果を上げ、完全復活を果たしました。幸先の良いスタートを切った今季は、さらなる躍進が期待できそうです。次の試合はゴールデングランプリ。「あんまり欲張らずにやりたい」と笑う一方で、「48秒前半とかが出たら最高ですね」と、頼もしい言葉を聞かせてくれました。
 2位は安部選手と同じ4組目に入った岸本選手。走りづらい1レーンながら49秒33をマークしました。1月に右ハムストリングスを肉離れして、4月に入ってようやくスパイクを履いて走れるようになったばかり。「これから走る練習をやっていくことになるので、そうすれば記録はもっと上がってくる。48秒台は行けると思う」と好感触を喜ぶ一方で、「あとはケガをしないようにしたい」と気を引き締めていました。
 3位には、49秒54をマークして2組1着となった井上駆選手(順天堂大)が続きました。この春、立命館大を卒業して順天堂大大学院へ進学した選手。昨年マークした自己ベスト50秒31から一気に記録を更新しての49秒台突入に、「調子が(いいかどうか)わからない状態で臨んでいたが、走っていて楽に行くことができた」と笑顔。「今年は、まずは日本選手権、全カレ(日本インカレ)、そして、できればアジア大会が狙えたら…」と意欲を見せていました。

 
■女子800mと400mは、川田選手が好記録で2冠
 女子800mは、昨年の日本インカレで2分00秒92の学生新記録(日本歴代2位)を樹立した北村夢選手(エディオン、当時日体大)、インターハイでデッドヒートの末、高校新記録(日本歴代5位)となる2分02秒57と同歴代2位(日本歴代7位)となる2分02秒74をマークした塩見綾乃選手(立命館大、当時京都文教高)と川田朱夏選手(東大阪大、当時東大阪大敬愛高)のトップ3が激突。見ごたえのあるレースが繰り広げられました。
 序盤は川田選手と塩見選手に競り合いながら前に出て、2人の後ろに北村選手がつく展開でしたが、300mあたりで塩見選手がリードを奪うと400mを60秒で通過。400m手前で北村選手が2位に上がり、川田選手が2人についていく隊列となりました。バックストレートで後続が大きく離れて勝負は3人の争いに。第3コーナーを回ったところで北村選手が塩見選手をかわすと、川田選手も塩見選手を抜いて北村選手を追いかけます。川田選手は残り50mで北村選手を抜き、2分02秒71の大会新記録でフィニッシュ。北村選手が2分03秒36、塩見選手は2分04秒16で続きました。
 その後、川田選手と塩見選手は1時間55分後に組まれていた女子400m(3組タイムレース)に出場。3組目で1着となった川田選手の53秒58が全体でもトップとなり、川田選手は2冠を獲得することとなりました。
 川田選手の800mの2分02秒71は、学生歴代3位となる自己新記録(日本歴代では自身の7位記録を0.03秒更新)で、400mも昨年マークした自己記録53秒56(高校歴代7位)に0.02秒まで迫り、学生歴代9位にランクインする好記録。川田選手は、4月29日に100mと1500mに出場して12秒02(+2.0)・4分27秒41と両種目で自己新をマークしたばかり。800mについては、「100mと1500mでベストが出ていたので、今日の800mにもつなげられるかなとは思っていたが、ベストが出るとは思っていなかった。昨年(2分05秒86で2位)よりは速く走りたいと思っていた程度だったし、大会記録も知らなかったので、タイムにはびっくり。最後まで身体が動いたのがよかったのかなと思う」と驚きをもって振り返る一方で、400mのほうは「スピードがついてきていたので、ベストを出したいと思っていたけれど、800mの後ということもあり、ちょっとしんどかった」と少し悔しげな表情も見せました。今季の目標を問われると、「このままなら2分を切るのも夢じゃない。800mで2分を切って、400mでも52秒前半で走りたい。今年は日本選手権2冠が目標。アジア大会も狙いたい」ときっぱり。女子選手で課題となりがちな高校から大学への移行が、スムーズに進んでいる様子をうかがわせました。
「ラストで出るプランだったが、後ろから来てしまった」と、さばさばした様子で振り返ったのは、800m2位の北村選手。2月の終わりに膝を痛め、3月後半あたりから練習を再開したという状況だったので、「今の自分の力を確認する」意味合いも兼ねてのレースだったとのこと。この日が今季4戦目でしたが、これまでのレースから考えると「負けてはしまったけれど、タイムは少しずつ戻ってきている。もっと悪いと思っていたので、自信になった」とコメント。明るい表情を見せていました。

 
■ダイヤモンドアスリート井本選手。男子400mでシニア選手を抑えV
 男子400mは3組タイムレースで行われ、その2組目にダイヤモンドアスリートの井本佳伸選手(東海大)が出場。200mから300mにかけてのコーナーをスムーズに抜けたところでトップに立つと、最後はやや追い込まれつつもそのまま逃げ切り、U20歴代6位となる45秒82の自己新記録でフィニッシュ。止まったフィニッシュタイマーの記録を見て、身体の前でパンと両手を叩いては小さくガッツポーズする仕草を2回繰り返し、喜びを表しました。
 激しく息を切らせながらミックスゾーンにやってきた井本選手は、「よかったです」と言ったあと、洛南高時代の恩師である柴田博之先生からレース前に“45秒、出せよ”というメールをもらっていたことを明かし、「もうやるしかないと思っていて臨んでいた」と声を弾ませました。「調子はいいほうだったので、45秒台は出すつもりでいた」と井本選手。「周りの人も前半が早かったので、焦ってしまった面もあったが、第3コーナーあたりで(自分が)前に出ていたので、記録が狙えるかなと思った」といいますが、「ラストはもう(体が)動かなかったです」と苦笑いしながら振り返りました。
 高校3年の昨シーズンは、故障や肉離れに悩まされた井本選手。秋も日本選手権リレーの4×100mR予選で高校新記録を樹立した際に肉離れを起こし、その状態でシーズンを終える形となっていました。回復後は冬季練習が積めていたものの、3月に右ハムストリングスに軽い肉離れを起こし、補強を中心とするトレーニングでシーズンを迎えていたと言います。その一方で、「スピードとか、自分が一番よかったと思う高校2年の冬のころの感じを、徐々に取り戻していっている気がしている」という実感も。今季については、200mでの活躍を期しているそうで、「すでにアジアジュニア(6月、岐阜市)は400mで代表に選んでいただいているが、できれば200mで勝負ができたら…」とコメント。今回45秒台に突入したことで上位が見えてくる形となった日本選手権についても、「できれば200mで」と言い切ったのちに、「200mはまだ日本選手権の標準記録を切っていないのですが…」と頭をかいて周囲を笑わせました。
 そうこうしているうちに、3組目のレースが終了。1着の記録が46秒38にとどまったため、ここで井本選手の優勝が確定しました。メディア陣から改めて優勝の感想を求められた井本選手は、少し考えたあとに「勝ったけれど、大輔に追いついていないのでまだまだ」とコメント。高校でのチームメイトである100mの宮本大輔選手(東洋大)の名前を挙げて、さらなる躍進を誓っていました。




■桐生選手、社会人デビュー戦は5位
 昨年、男子100mで日本人初の9秒台をマークした桐生祥秀選手(日本生命、当時東洋大)が、社会人として今季初戦に選んだのは、この静岡国際の男子200m。当初、出場を予定していた飯塚翔太選手(ミズノ)、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)、藤光謙司選手(ゼンリン)が欠場したために、顔触れはやや寂しくなりましたが、個人種目でのレースは9秒台をマークした昨年の日本インカレ以来となる桐生選手が走るということで、多くの観客が来場。正面スタンドはほぼ満席に埋まる盛況ぶりとなりました。
 桐生選手は、予選を20秒69(+1.1)の2着で通過。7レーンに入った決勝では、序盤は先頭争いをしていましたが、ホームストレートに出てくるあたりから徐々に順位を下げていくまさかの展開に。レースは、終盤に順位を上げたショーン・マクリーン選手(アメリカ)が20秒70(+0.3)で優勝し、20秒75で続いた原翔太選手(スズキ浜松AC)が日本人トップの2位でフィニッシュ。桐生選手は、最後は大きくスピードを落とし、21秒13・5位でレースを終えました。
 レース後のインタビューでは、報道陣からの問いに答えるなかで実は体調が万全でなかったことを明かした桐生選手。数日前から喉風邪の症状が出て、声が出ない、咳が止まらないといった状態に陥っていました。病院で投薬を受けて声は出るようになったものの、当日も咳き込む状況が続いていたといいます。
「(決勝は)普通に前半行って、最後まで持つかなと思っていたので、前半行きすぎた(から失速した)という感じはない。予選よりは前半を飛ばして、けっこういい流れだったと思うのだが、そこからがやばかった。走っていて呼吸ができない感じになってしまったので」と桐生選手。レース後は顔面蒼白の状態でミックスゾーンに現れ、苦しそうに咳き込む場面も見られました。
 この日は、「咳き込んでいたので、ずっと苦しかった」そうですが、決勝を欠場する考えは全くなかったと言います。それは、“試合勘”をどうしても取り戻しておきたい気持ちがあったから。「(個人のレースが昨年の)9月から空いてしまったこともあり、予選ではスタートラインに立ったときにいらないことを考えるなど、練習のような感覚から抜け出すことができなかった。決勝は予選よりはましだったけれど、それでもまだまだ。ただ、決勝のほうが少しは集中できたので、出ておいてよかったと思う」と、その理由を説明しました。一方で、「いい感じで社会人デビューして、応援してくれる日本生命の方々や、見に来てくれた小・中学生の期待に応えたかった。それができなかったことは、とても残念」と反省の弁も口にしました。
 このあとは、5月12日の上海ダイヤモンドリーグ、5月20日のゴールデングランプリと、100mで2連戦の予定。どちらもレベルの高いメンバーが揃うなかでのレースとなります。「これだけ拍手してもらえるのも、フィニッシュしたときのため息(笑)も、注目していただいているということ。それだけに、結果もしっかり残していかなければ」と桐生選手。その視線は、すでに次のレースへと向けられていました。

 
■女子400mHは、宇都宮選手が東京混成に続くV
 このほか、グランプリ種目で活躍が目を引いたのは、2週間前の東京混成女子七種競技を日本歴代3位の5821点で制した宇都宮絵莉選手(長谷川体育施設)。女子400mHに出場して57秒49で優勝しました。また、男子走高跳では、4月22日の筑波大記録会で自己記録に1cmと迫る2m30を4年ぶりにマークしている戸邉直人選手(つくばツインピークス)が2m28をクリア。大会時点で今季ワールドリーダー(2m32)であったブランドン・スターク選手(オーストラリア、2m25・2位)との勝負を制しました。
 3組タイムレースで行われた男子800mは、3組で1分46秒71の大会新記録を樹立したジョシュア・ラルフ選手(オーストラリア)が優勝。1分47秒01の自己新記録をマークして3組2着となった社会人1年目の村島匠選手(福井県陸協)が、日本記録保持者(1分45秒75)の川元奨選手(スズキ浜松AC、1分48秒00・3位)の追撃を許さず、日本人トップの2位で先着しました。
 女子200mでは、日本記録保持者(22秒88)の福島千里選手(セイコー)が序盤から果敢に攻める走りを披露。23秒35(+1.1)で織田記念100mに続いて快勝し、着実に調子を上げてきている様子をうかがわせました。また、織田記念100m同様に、前山美優選手(新潟アルビレックスRC)が2位でフィニッシュ。自己タイ記録となる23秒80をマークしています。



文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト

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