2017.02.10(金)選手

ダイヤモンドアスリート 第2回・第3回リーダーシッププログラム開催。 為末大氏と堀江貴文氏の対談などを実施!

 「ダイヤモンドアスリート」を対象に実施される「リーダーシッププログラム」の第2回と第3回が、1月12日・13日、味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて行われ、犬塚渉選手(順大)、橋岡優輝選手(八王子高)、山下潤選手(筑波大)、長麻尋選手(和歌山北高)が参加しました。

 このプログラムは、東京マラソン財団スポーツレガシー事業運営委員の為末大さん(男子400mH日本記録保持者、2001年・2005年世界選手権銅メダリスト)が監修しています。1月12日の第2回は、「ソーシャルメディア時代のリテラシー」をテーマとした藤代裕之さん(ジャーナリスト/法政大学社会学部メディア社会学科准教授)による講義のあと、坂井伸一郎さん(株式会社ホープス代表取締役)によるワークショップ「“身体の分解能”向上研修」が行われ、翌13日の第3回は、Andy Utech(アンディ・ユーテック)さんが「“グローバルコミュニケーション”向上研修」をテーマとするワークショップを行ったのちに、ゲスト講師として登壇した堀江貴文さん(SNS media & consulting株式会社ファウンダー)に、為末さんが対談形式で話を聞いていくという内容になりました。

 また、アスリート委員会からは、第2回に澤野大地選手(富士通)と藤光謙司選手(ゼンリン)が、第3回に金丸祐三選手(大塚製薬)と山本篤選手(スズキ浜松AC)がメンターとして出席。ダイヤモンドアスリートたちと共にディスカッションやワークショップに取り組みました。

第2回リーダーシッププログラム(1月12日)

■講義:ソーシャルメディア時代のリテラシー

 インターネットの普及に伴い登場したソーシャルメディアは、この10年で急速な発展を遂げてきました。新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等に代表されるマスメディアと比較すると、誰でも気軽に活用できる、個人が発信者となることができる、利用者が双方向で情報伝達できる、即時性が高いなどの特徴を持つ一方で、公私の区別があいまいである、歴史が浅く業態自体がまだ流動的(常識やビジネスモデルが確立されていない)である、儲けることを目的に信憑性やモラルを無視した使い方をする層が存在する、急な発展に法的な整備等が追いついていないなどリスクとなる側面も併せ持っています。
ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論を専門に法政大学で教鞭を執る傍ら、ジャーナリストとしても活動する藤代さんは、「今、ちょうど端境期にある」というソーシャルメディア時代のこうした現状を、具体例を挙げながら解説するとともに、ソーシャルメディア時代におけるニュース伝達の構造、偽ニュースが拡大する仕組み、見舞われる(巻き込まれる)恐れのあるトラブルの事例などをわかりやすく説明し、ソーシャルメディアを利用する際に注意することとして、

  • 「私」でなく「公」として利用する、
  • 発信元が不透明なメディアの情報をシェア、リツイートしない、
  • (もし、ネガティブな問題に見舞われた場合は)時間をかけて、専門家のアドバイスを受けながら行う対応する、

の3つを挙げました。

 さらに、「メディアはパワー。人間は賞賛されたり賛同されたりすれば、自分が正しいと思ってパワーがあるように勘違いしてしまうことがあるので注意したい。皆さんの場合は、競技をきちんとやっていれば、それらはついてくる。特に(これからアスリートとしての実績と積んでいく段階にある)皆さんの場合は、“いいねやリツイートをたくさんもらって、面白いことを言おう”という考えとは少し距離を置き、競技者として丁寧な情報発信を心がけることが大事」と語りました。

 その後のディスカッションでは、メンターとして参加したトップ選手たちから、「今後、東京オリンピックに向けて、アスリートとしての注目や期待が高まっていけばいくほど、ネット上でも“さまざまな視線”にさらされることになる。それに耐えられるメンタルが必要になってくる」(澤野選手)、「SNSということでは情報発信の仕方に問題のある指導者もいる。若い世代への指導も大事だが、指導者に対する指導が必要だと思う」(藤光選手)といった発言があったほか、「何を軸とするかを自分なりに持つ、あるいは組織として持つことが必要」(為末)、「競技もそうだが、発信においても自分のスタイルが表れるほうがいい。トップアスリートは、“その人らしさ”と競技スタイルが一致している。メディア化が避けられない状況の今、何を発信していくのかの軸は、自分の関心事と重なっていることが望ましいだろう」(藤代)などの意見も。また、アスリートとしてトップを目指していく上で、藤代さんは、自分の置かれたステージに応じて変化していくことの必要性を述べ、「発信についても、競技と同じで“今までのやり方では通用しない”と思ったら変えていくべき。そのときに必要なのが“いかに良質な情報を得られるようにするか”。メンターとなる先輩から助言を得たり目標とするステージから情報を得たりして自分の考え方を成長させていくことが大切。もし、それまでの人間関係がこれを阻むのであれば、非情といわれるかもしれないが、距離を置くことも必要」と述べました。

 こうした話を聞いたダイヤモンドアスリートたちからは、「ツイッターを使っているが、面白いものを見たらすぐに(いいねを)押したりしていた。気をつけるようにしたい」(犬塚)、「(陸上競技経験者の)両親と話をしていると自分とは異なる意見を聞くことがあって、違う考え方もあるのだなと感じたことがあったのだが、今日の話を聞いて、変化していくことの必要性を改めて感じた」(橋岡)、「ツイッターはやるが、ネットメディアについてあまり考えたことがなかった。適切な距離を見つけて保てる術を身につけたい」(山下)、「自分には言われたことに対して、つい話を合わせてしまったりするところがある。注意していきたい」(長)といった感想が挙がりました。

 冒頭で、「ソーシャルメディアは、うまく使えば大きなパワーになって、競技にもプラスに影響させることができる。特に、みんなの場合、今後、スポンサーを見つけなければならないタイミングが来るはず。そのときには“発信力”がスポンサーを得られやすいかどうかとセットになってくる」とソーシャルメディアを活用することのメリットも述べていた為末さんは、「どこに“落とし穴”があるのかは大人にもわからず、また、何か起こったら年齢に関係なく平気で叩くというネットメディアの凶暴性も知っておいてほしいという意味で、今日は特に“防衛”の観点で話していただいた。陸上界に対してメディアはかなり友好的なので、日常的な場面ではそんなに気にする必要はないが、こうした側面もあることを知ったうえで、上手に、しなやかに活用してほしい」とまとめました。

■ワークショップ:“身体の分解能”向上研修

 続いて、坂井さんによる“身体の分解能”を向上させるワークショップが行われました。分解能とは“受容できる刺激の範囲”のことで、「わかりやすくいうと、“自分が持つ感覚器がどれくらい細かいサイズの物差しをもっているか”“わずかな差を感じることができるか”ということ」と坂井さん。

 坂井さんは、裏面にざらつき具合が異なる紙やすりを貼り付けた正方形の発泡スチロール板を、目隠しをして指先の感覚だけで滑らかな順番に並び替える作業や、黒から白までのグラデーションを9分割させた用紙を、濃度のスケールに合わせてグラデーションを確認したのちに、視覚に残る感覚を頼りに濃度の順に並べていく作業などを通じて、感覚の物差しを持つことを認識させるとともに、その物差しの目盛りをつくる方法(常に中間を決めて、細分化させていく)を紹介。「アスリートの場合、日頃のトレーニングや意識はアウトプットすることに向きがちだが、そのアウトプットのためには、インプットにも意識を払う必要がある。また、その感度を高めることは、さらなる競技力の向上につながる可能性もある」と話しました。さらに、自身が取り組む競技に、自分の触覚のどの部分が重要になるのかを考えてみることを提案。「それによって、そこがもっと感覚を研ぎ澄ますべき大切なポイントであることを改めて認識できる」こと、そして、「それを意識するだけでも、感覚が変わる可能性がある」と述べました。

 その後のディスカッションでは、「好不調によって生じる感覚のずれを、自分のなかでアジャストできるようにしている」(澤野選手)、「競技力を保つポイントは、修正が必要なときに、自分のなかにどれだけ多くの引き出しがあるか、選択肢をたくさん持っているかがポイントだと思う」(藤光選手)、「陸上の場合、このままだと良くなっていく、あるいは悪くなっていくという気づきのようなものも、感覚としてあるかも」(為末さん)といったように、年配者から自身の経験に基づく陸上競技ならではの感覚も提示され、話題は「インプットの際の感覚を高める」という枠を超えたところまで広がりました。

 最後に為末さんは、「今日のプログラムで前半(講演)と後半(ワークショップ)に通底していたのは、“インプットとアウトプットをコントロールしよう”ということ。情報にしても身体の感覚にしてもコントロールすることが求められる。また、スポーツでは、スペーシング(距離感)、グレーディング(強さの調整)、タイミングの3つの要素が必要といわれるが、この3つがさっき話題になった“物差し”にあたるのではないか。そして、もう1つ共通していたのは、“立ち位置を探せ”ということ。前半においては、“社会のなかで自分はどういう立ち位置をとるのか”ということだったし、後半は“身体のなかでどういう立ち位置をつくるか”という話だった」と総括。ダイヤモンドアスリートたちに、「競技にプラスになる話題がとても多かったので、今、完全に理解ができていなくても、少し時間が経ってから“あの話はこういうことだったのか”とわかる日がくるはず。ぜひ頭のなかにとどめておいてほしい」と呼びかけ、第2回のリーダーシッププログラムは終了しました。

第3回リーダーシッププログラム(1月13日)

■ワークショップ:“グローバルコミュニケーション”向上研修

 翌1月13日の午前に行われた第3回リーダーシッププログラムは、ワークショップからの実施となりました。開始にあたって、坂井さんから、「ダイヤモンドアスリートは望むか望まないかにかかわらず、グローバルな立場で活動していかなければならない存在。使われる共通言語も英語となってくる。しかし、そこでまず求められるのは“上手に英語を話す”ことではなく、“いかに自分の伝えたいことを正しく相手に伝えるか”ということ。今日は英語を使ったプログラムだが、単語やフレーズを覚えることではなく、どうやってコミュニケーションをとっていけばいいのかを学んでほしい」というワークショップの目的や予定されている大まかな内容が伝えられたあと、講師のユーテックさんにバトンタッチ。以降のワークショップは英語で進められました。

 ユーテックさんは、外国映画に出演する日本人俳優への英語指導や、英語表現を用いた演劇や舞台の演出や指導のスペシャリスト。まず、日本語は50%の理解度でも相手が意図を汲んでくれるが、英語は100%の理解を好み、そのために何度も繰り返し聞くことや聞かれることを厭わないという違いがあることを説明したうえで、選手たちに質問を投げかけたり、設問を与えて選手たち同士でやりとりさせたりするなかで、

  • わからないことは、そのままにせず、“わからない”とはっきり伝える、
  • 相手の言っていることが理解できなかった場合は、どの部分がわからないかを繰り返し聞いていく、

ことを促し、「正しい英語であることは重要ではなく、とにかく相手に伝わることが重要。言葉がわからない場合は、ボディランゲージを使っても、絵を描いてもいい。考えが伝われば全く問題はない。伝わらないことに対してパニックにならずに、とにかく挑戦していこう」と呼びかけました。

 ワークショップの後半では、メンターとして参加した金丸選手、山本選手も含めて、2人ずつ3チームに分かれて、買い物ゲームが行われました。配られた紙を切って正円、正四角形、正三角形(商品)をつくり、ユーテックさん(バイヤー)に売って、その儲けを競うというもの。しかし、各チームに配られた道具(はさみ、カッター、定規)や紙の色は不平等で、さらに設定価格も5分ごとに大きく変動するため、選手たちは、徐々に自分たちが損をしないように条件を提示しながら、他チームやバイヤーと交渉し、道具や商品を交換したり売買したりするようになっていきました。

 ゲームを終えたあと、ユーテックさんは、「異なる条件下で行われたこのゲームは不平等。しかし、備え持つ素質や能力、やってきたトレーニングや指導を受けたコーチが異なる選手が集まるという意味では、競技会もこれと同じといえる」と話し、そのなかで「交渉したり、ときには助けを求めたりすることもあるはず。そんなとき、どう相手に考えを伝えるか、どうやって助けを求める声を理解するかが、本当の意味でのグローバルコミュニケーション。そこで重要なのは完璧な英語ではない。一番重要なのは思っていることが正確に相手に届くこと」と訴えました。

■対談:堀江貴文さん×為末大さん

 講師に招いた堀江さんについて、為末さんは、「普通、人間は常識や思い込みに縛られがちなのだが、堀江さんは、そういうことをすべて取っ払って、ゼロベースで考えることができる人。話を聞いていると、おそらく前提条件が全部崩れてくると思う。競技に関係ない話や理解できない話なども出てくるかもしれないが、とにかく自分の頭の中にある思い込みを一回まっさらにした状態で、話を聞き、刺激を受けてもらいたい」と紹介。対談は、為末さんが質問を投げかけ、これに堀江さんが答えるという形で進められました。

 まず、「社会はどれほど思い込みに縛られているか」「ゼロベースで考えるとはどういうことなのか」という問いかけに、堀江さんはスマホとガラケー、ネットを使っての振り込みとATMから振り込み、ビットコインと銀行などを例に挙げて、「最先端の非常に便利な仕組みができていて、技術的にも利用可能な状態になっているのに、なかなかそこへ切り替わっていかない。その原因は、人が長年慣れ親しんだ習慣(思い込み)を変えることができない(ゼロベースで考えることができない)から。そうした例が社会にはたくさんある」とコメント。こうしたいくつかの例を経て、話はスポーツへと移っていきました。

 “もし、自分がオリンピックで金メダル獲得を目指すのなら”という観点で話が進むなかで、「まず何がKPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicators)かを考える」と述べた堀江さんは、マイケル・ルイスが書いたノンフィクション『マネーボール』の例に挙げて、勝つための方法を探り、戦略を立てることの重要性を紹介したほか、“目指すその一点で最大限のパフォーマンスを発揮するという意味では、オリンピックでメダルを獲得することは、受験のテクニックに通じる部分がある”として、自身の東大受験の経験やマンガ『ドラゴン桜』(三田紀房)に描かれた受験のテクニックを引き合いに、目標を達成していくための考え方や手順を提示。「オリンピックで金メダルを取るために、そこへもっていくメソッドというのはきっとあるし、おそらく競技ごとに統計的な指標もあるはず。また、マイナー競技のほうが勝てる可能性は高いし、変数の多い複合競技やその都度条件が変わる競技のほうが工夫の余地があるので、自分ならまず競技選びのところから考えていく。陸上のような伝統的な競技の場合は、一筋縄ではいかないかもしれないが、もし、陸上のなかから種目を選ぶなら、よりマイナーで選手層の薄いところに行くと思う」と自分の考えを述べました。

 そして、「そういう選び方を、邪道と思わないでほしい」と堀江さん。その理由を「競技人生は短く、メダリストであるかないかで、その後の人生は全く違ってくる。そこに一生がかかっているわけで、しかも、オリンピックでメダルに挑戦するというのは、ほんの一瞬のことなのだから」と言い、そのうえで、「目指すその当日に、パフォーマンスを最大化するにはどうしたらいいのかを今から考え、やれることは全部手を打たなければならないし、そこに一切の手抜きはできないと思う。才能だけで取ってしまう人も稀にはいるのかもしれないが、金メダルを取る人たちも大半は、きっとやれることはやり尽くしてその場に臨んでいるはず」とコメントしました。

 最後は、カンボジアの国籍を取得して男子マラソンでオリンピック出場を果たした猫ひろしさんの例を上げつつ、「オリンピックで金メダルを取ろうと思ったら、僕なら、国から選んで、競技を選んで、一番金メダルに近い種目が何かを考える。もし、皆さんがそこまで突き詰めてやれば、メダリストになれると思う。ただ、それを選ぶかどうかは、自分の決断になってくる。皆さんには、日本の代表としてオリンピックで戦ってほしいが、一方で、そういう考え方もあるということを知っておくといいと思う」と締めくくりました。

 堀江さんが退席したあと、為末さんから感想を求められた犬塚選手は、「面白かった。いろいろな考えを持つのが大切だと思った」とコメント。橋岡選手は、「普段耳にする話とは別路線というか、考え方が違っていた。そういう考え方もあるんだなと思った。いつも聞く話だったり、堀江さんのような少し特殊な考えだったりを織り交ぜながら、順応しながら生きていかなければと思った」と話しました。

 為末さんは、「堀江さんがすごいと思うのは、本当にゼロから考えていけるところで、その大前提にあるのが、自分が勝利を目指すときに“価値基準”というものをつくって勝利を目指すということ」と述べ、「例えば、今日の話で国籍変更の話を聞いて、“自分は別の国の人間になってメダルは取りたくない”と感じたとしたら、それは、その瞬間に“自分は日本人としてメダルを取りたいんだ”という気持ちがよりはっきりしたということでもある」としたうえで、「こうやって、今まで思いもしなかったような選択肢もあるなかで、1回ゼロにした状態から全部を考えていくと、自分の軸ははっきりしてくる。“それしかない”というのと、“いろいろあるなかでこれを選ぶ”というのとでは全然違ってくる。ぜひ、みんなには“自分が今やっている陸上競技の種目しかない世界”だけを見るのではなく、“そこも含めたいろいろな世界”を広く見たなかで、自分はどうするかということを考えながら競技に取り組んでほしい」と総括しました。

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(取材・構成:児玉育美/JAAFメディアチーム)

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