2017.09.10(日)大会

【レポート&コメント】桐生選手、日本インカレ男子100mにて9秒98!

9月9日、福井運動公園陸上競技場(福井県福井市)で開催中の第86回日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)男子100m決勝が行われ、桐生祥秀選手(東洋大4年)が公認記録で日本人初となる9秒98(+1.8)の日本新記録、日本学生新記録を樹立しました。この記録は、ナイジェリア出身でカタール国籍を持つフェミ・オグノデ選手が2015年と2016年にマークしている9秒91に続くアジア歴代2位となる記録で、アジア出身の選手としては、蘇炳添選手(中国)に次いで2人目の9秒台。蘇選手が2015年に2回マークした9秒99を0秒01上回りました。従来の日本記録は、伊東浩司選手(富士通、現日本陸連強化委員長)が1998年バンコクアジア大会の準決勝でマークした10秒00。桐生選手は、これを19年ぶりに更新しました。

日本インカレにおける各種目の好結果については、後日改めてご紹介する予定ですが、ここでは桐生選手による男子100m9秒台突入に関して、当日の模様をレポートします。

4年生の桐生選手にとって、東洋大学のユニフォームを着て臨む最後の日本インカレ。100m・200m・4×100mR(アンカー)の3種目にエントリーした桐生選手は、大会初日の9月8日に、まず男子4×100mR予選を39秒77で1着通過したのちに、男子100m予選を10秒18(+4.7)、同準決勝を10秒14(+2.4)でそれぞれ通過して、決勝へ駒を進めていました。

翌9日は、午前中に行われた男子200m予選に出場して21秒41(-0.4)・1着で通過していましたが、実は左脚ハムストリングスに不安を抱えた状態でこの大会に臨んでいた影響で、100m決勝に出場するかどうかを決めきれていない状況でした。
最終的に出場することを決めて臨んだ決勝は、予選を10秒17(+2.8)、準決勝を10秒20(+2.9)で通過してきた多田修平選手(関西学院大学)が3レーンに、桐生選手は5レーンに入る番組編成。正面スタンドの座席が満員となり、スタンドの最上階もぎっしりと立ち見が出るほどの観客が埋まるなか、15時30分から競技開始となりました。

会場中の誰もが固唾をのんで見守るような静寂に包まれたなか号砲が鳴ると、多田選手が得意の序盤で前に出て、40~50m地点で大きくリードを奪ったかに見えましたが、そこから桐生選手が追い上げて多田選手を逆転して先着。フィニッシュタイマーは“9.99”で止まりました。
いったん表示の消えたフィニッシュタイマーが、少し経ってから掲示した正式記録は“9.98”。スタンドの歓声がいっそう高まり、会場全体が大きなどよめきと拍手に包まれます。レース後、第2コーナー付近まで走り抜け、正面スタンド側へ戻ってきていた桐生選手は、正式記録を確認したとたん、飛び跳ねながら手を叩き、ガッツポーズを見せながらホームストレートへ。大きく沸き返る観客席に向かって一礼を繰り返しました。

「やっと4年間くすぶっていた自己ベストが更新できた。(速報が)“9.99”と出て、そこで嬉しさもあったが、(正式記録が)“10.00”にならないでくれと自分のなかで祈っていた」と振り返った桐生選手は、個人種目での出場を逃したロンドン世界選手権を引き合いに出し、「今年は世界の舞台にたてなかったので、9秒台を出してやっと世界のスタートラインに立てたのかなと思う」とコメント。日本人で最初に9秒台突入を達成した気持ちを問われると、「そこは考えていた部分はあるが、もっと先のこと…ファイナリストに残りたいというのが僕の一番の目標なので、もちろん9秒台を出して嬉しかったが、そこからまた再度スタートを切っていきたいと思う」と答えていました。

東洋大で桐生選手の指導にあたる土江寛裕コーチは、「(洛南)高校のときに10秒01で走ってから、桐生は9秒台の期待を背負ってここまでやってきた。順風満帆ではなかったときもあったが、東洋大学のユニフォームを着ている間に30cm(注:100分の3秒を距離にたとえて)ほどだが前に進むことができ、10秒の壁を突破できたことは本当にうれしい」と喜びを語り、「世界で戦うことを考えると、やっと勝負するパスポートのようなものを得たのかなと思う。東京五輪に向けて、世界と勝負できるように取り組んでいきたい」と述べました。

また、レースを振り返って「今回は、技術というよりも、桐生くんの意地を感じた」という感想を述べた前日本記録保持者の伊東強化委員長は、「桐生くんには“4年間よく我慢したね”と声をかけたい」と桐生選手をねぎらうと同時に、「この記録が日本の好条件のなかで出したものでは終わらせたくない。世界のスプリンターと走ったときに9秒98を再現できるような、そういうスプリンターになっていってほしい」と、今後に向けて期待を込めていました。

なお、このレースで2位となった多田選手も10秒07をマーク。ロンドン世界選手権、台北ユニバーシアードと高いレベルでの転戦による疲労がピークとなっているなか、自己記録を0.01秒更新する好走でした。レース後、感想を求められて、「やっぱり悔しい」と答えた多田選手ですが、一方で、「体調的に万全ではなかったこの状態で、嬉しくはないけれど自己ベスト。9秒台も近づいてきている感じもあるので、(次戦となる)国体に向けて調整していきたい」と前を向いていました。

■桐生祥秀選手コメント 
日本インカレ男子100m優勝 9秒98(+1.8)=日本新記録、学生新記録
「(レースを終えた今)テンションが上がっている。東洋(大学所属として)最後の100mの大会で、こういうタイムが出せた。大学に入ってからは、うまくいかないこともあったし、このまま100m・200mのベスト記録を出さずに卒業してしまうのかなという思いがよぎったこともある。いろいろ考えたなかで今回出場して、こういうタイムが出せたのはすごく嬉しい。

今回は、左脚に不安があったので、土江コーチともぎりぎりまで相談して(決勝への)出場を決めた。出るならケガしてもいいくらいの気持ちで、前半から飛ばした。ゴールしてからは、(速報タイムが)9秒99(だったの)で、10秒00にならないようにということだけを祈っていた。それが9秒98。0.01秒でも早くフィニッシュラインを駆け抜けられてよかった。

大学最後の大会で、しかも、100m今季最後のレースで、この記録を出せたのはすごく嬉しい。監督・コーチに感謝の気持ちでいっぱいである。(レース後、後藤勤トレーナーに抱きついたときの心境を問われて)高校3年のときから診てもらっていて、しんどいときにいろいろ助けていただいた人。これまでしんどいことがあると僕が涙を流すシーンが多かったが、その僕が笑顔でゴールして、逆に僕をみてくださってきた人たちが涙を流すという状況になったのは、僕としてはすごく嬉しい。

また、スタンドの2階の一番上までお客さんがびっしりだったので、これはすごいなと思った。(会場の雰囲気も)めちゃくちゃ盛り上がっていたので、とても力になった。
これまで自分では思っていなくても、ニュースなどで“9秒台が壁”といわれてきたわけだが、自分がよく考えていたのが、“突破してからがやっと世界のスタート地点だ”ということ。世界のファイナリストで10秒台の選手はいない。9秒台を出して、やっと(ファイナリストへの)スタート地点に立ち入ることができたのかもしれないと感じている。(日本選手権4位、世界選手権個人種目代表漏れなど)今年の夏は悔しい思いをしたが、それがあったからこそ夏にしっかり練習できたのかなと思う。9秒台を先に出したからといって、来年の日本選手権で優勝を狙うことに変わりはない。そこに甘えることなく練習していきたい。」



(文:児玉育美/JAAFメディアチーム)

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