2018.03.22(木)選手

【ダイヤモンドアスリート】第4回リーダーシッププログラムレポートVol.1

ダイヤモンドアスリートを対象にした「リーダーシッププログラム」の第4回が、2月23日、味の素ナショナルトレーニングセンターで行われました。東京マラソン財団スポーツレガシー事業として、運営委員の為末大さん(男子400mH日本記録保持者、2001年・2005年世界選手権銅メダリスト)が監修しているこのプログラムも今回が最終回。プロダクトデザイナーの加藤大直氏(MagnaRecta,Inc兼RepRap Community Japan代表)による講義とその振り返り、為末さんによるまとめのワークという内容が組まれ、2017-2018ダイヤモンドアスリートの橋岡優輝選手(日本大)、江島雅紀選手(日本大)、長麻尋選手(和歌山北高)、宮本大輔選手(洛南高)、塚本ジャスティン惇平選手(城西大城西高)、藤井菜々子選手(北九州市立高)、ダイヤモンドアスリート修了生の山下潤選手(筑波大)のほか、アスリート委員会から澤野大地選手(富士通;棒高跳)、加納由理さん(長距離・マラソン。2009年ベルリン世界選手権女子マラソン 7位)が受講しました。

◎講義:「運動」について


 加藤さんは、アメリカのNew York Parsons美術大学を卒業後、現地で建築デザイン会社に入り、プロダクト/インテリアデザイナーとして数年働いたのちに帰国。日本に戻ったのちに、国内初の組み立てられる3Dプリンターをつくり、組立てワークショップを全国開催したことで、日本における個人用3Dプリンター導入の先駆者として広く知られる存在となりました。現在、MagnaRecta(マグナ・レクタ)という会社を経営しながら、RepRap Community Japanという3Dプリンターのオープンソースのコミュニティの代表を務めたり、東京芸術大学のアートメディアセンターとデザイン科で教えたりしています。さまざまなタイプの3Dプリンターをゼロからデザイン、設計、生産するほかに、コンセプト、モノがどのように必要とされどのように使われて終わっていくかを含めた起承転結を考えるデザインを主とした活動から人間の六感とデジタルを融合させることを研究し、製作活動を行っています。講義に際して、進行役の坂井伸一郎さん(株式会社ホープス代表取締役)が、「3Dプリンター(コンピュータ上でつくった3次元データをもとに、立体物の製品を造形する機器)は、物をつくる機械だが、加藤さんは、その物をつくる3Dプリンターをつくる人。今回のリーダーシッププログラムでは、“前人未到”というキーワードを共通のテーマにしてきたが、皆さんは、今後、今までと全く違うものをつくりだすことが求められている。皆さんとは全く分野は違うけれど、今まで何もなかった道を歩んでいる先輩ということでお招きした」と加藤さんを紹介。講義が始まりました。

 まず、加藤さんは、参加者に白い紙と鉛筆、練り消しゴムを配り、身の回りにあるものをデッサンすることを促しました。制限時間は10分。「自分がいいと思う大きさ」「何も考えずに、ひたすら10分間、手を動かす」「できるだけリアルに、写実的に描く」ことがルールです。


 10分後、描き上げたデッサンを、練り消しゴムですべて消すことを指示。消し終えた段階で、「10分間、また同じものを描いてください」と呼びかけ、「鉛筆は、先で描き込むより、側面で描いたほうが塗りやすい」などのアドバイスを加えながら、参加者たちがデッサンしていく様子を見守りました。その10分後には、再び、すべて消すことを指示。消し終えた段階で、さらに「10分間で、同じものを描いてください」と3回目のデッサンを指示。「さっきよりももっと手を入れて、よりリアルに」「前に描いた線をなぞってもいいし、なぞらなくてもいい。自分が描いているものを見ながら、前の線をなぞるのが合っているのかを考えて」などの言葉をかけていました。
 こうした約35分の“ウォーミングアップ”が行われたのちに「今日は、“運動”について話します」と、講義はスタート。“運動”という言葉の意味を、漢字の意味からとらえるなどした上で、“自分の頭で運ぶことを考え、自分を身体で 動かすこと”を“運動”とした場合、「皆さんに、“あなたは、本当に自分で運動できていますか?”ということを聞きたい」と切り出し、さらに「アスリートとしての皆さんが、運動をしているなかで究極のゴールを問われたら、メダルとか世界新記録とか答えるかもしれないが、人間の一生という時間の流れのなかでみた場合に、それを本当のゴールとしてしまっていいのか? メダルを獲得したり記録を出したりしたあとのことを考えなくていいのか?」と問いました。
 ここで「私が言いたいのは、メダルを獲得したり記録を出したりしたあとのことを考えろということではなく、“運動”について考えるとき、皆さんは、区切りのある運動だけを“運動”と見てしまっているのではないかということ」と加藤さん。「スポーツとしてやっている“運動”の場合は、始まりがあって終わりが必ず存在する。しかし、“運動”を“自分の頭で運ぶことを考え、自ら動かすこと”と考えると、アスリートでなくても生まれてから誰もがやっている。人は、社会という目に見えない枠組みにあって死ぬまで“運動”し続けていて、その“運動”は、人が何かを生み出すことを続けるのをやめない限りはずっと続くもので、皆さんのやっている“運動”とは本質的に異なる。つまり、人間の“運動”とスポーツの“運動”は違うものである」と述べました。

 このあと加藤さんは、最初にデッサンを描かせたときのことに話を戻しました。「2回、3回と全力で描くことを繰り返すなかで、だんだんと“描くとはどういうことか”がわかってきたはず。それは、泳げない人が泳げるようになったり、自転車に乗れない人がうまく乗れるようになったりするのと似ている」と言い、こうした反復をさらに繰り返していくことによって、

・描き続けた結果がだいたいわかる
・描き続けて得られるものもだいたいわかる
・描き続ける自分というのが把握できる
・自分が今、何をしていて、何を得ようとしているかが把握できる

という段階を経て、自分のことを少し離れた位置から観察できるようになると述べました。そして、「皆さんの場合、メダリストになりたいというのは第一段階ではないか。そのあとが見えていないというのは、愚の骨頂としか言いようがない。そのあとが見えているかどうかということが、これからは求められる」と言い、「世の中には何があって、どう動いているのかということを、自分も含めて常に俯瞰して見ることが大切」であると訴えました。
というのも、人間が生活していく上では、自分のいる領域は他分野と異なるものではないから。「例えば、スポーツ選手も、デザイナーも、研究者も、自分の取り組む領域は何も特別なものではなく一緒」と加藤さん。「同じ目線(領域)のライバルの人たちというのは、実はライバルではなく、本当の意味で肩を並べて競争しなければならない相手は、必ずしも自分と同じ領域にはいない者だったりする。それは、学者かもしれないし、アーティストかもしれないし、もしかしたら経営者かもしれない。皆さんは、そういった人たちと、ずっと追いかけっこしていく。その追いかけっこは、何をしていても第一線で活躍していく限り楽しいもの。それを含めて、皆さんは一生かけてずっと“運動”をしていくことになる」と話し、「今日、参加されている皆さんは、競技(スポーツ)という一括りのなかで、すごく限られた形で“運動”を捉えていないか。メダルを取るまで、世界新を出すまで、もしくは何歳までと言ったように。そう狭いところでなく、もっと広い意味で、全体的に、どういうふうに“運動”したらいいか意識することを心がけましょう」と呼びかけました。
さらに、加藤さんは、現在から将来を見たとき、「すでに現在、運動の“運ぶ”を考えるのが、人間である必要がなくなってきていて、人工知能のほうが、人間が考えるよりはるかに素晴らしい答えを出してくれるようになっている」とし、その次には、人間と同じ体組織を持ったバイオロイドが生成され、それが生身の人間よりも高い能力を発揮するようになる時代がやってくると、未来を示唆。

 また、そうした世界ではバイオロイドによるスポーツが成り立つことも考えられ、それに人気が集まったり同様に新たなスポーツができたりしてスポーツの定義が広がれば広がるほど、個々のスポーツの価値が薄まってしまう恐れもあるとして、「そうなったときに、あなたたちはどうするか? スポーツの価値はどこに宿るのかということを考えなければならない日がくると思う。新しい価値を生み出すことが、人間に残された唯一できることになるかもしれない。そのためにも、頭を使い、自分が生まれてから死ぬまでのことを全部考えて“運動”し続けることが必要。そうしないと無価値になってしまう世の中が、だいたい10~20年後くらいには来てしまう」と投げかけました。そして、「そう考えると、速く走る、高く跳ぶ、人より点数を取るというのは第1段階、メダルを取るのは第2段階かもしれない。ただ、そこで終わってしまうのでなく、長期的に見て、死ぬまで走り続けられる僕(デザイナー)、走り続けられるサイエンティストたちなどと一緒に肩を並べて走り続けるために、アスリートはいったい何をしたらいいのかということを、常に忘れずに考え続けてほしい」と訴え、講義を終えました。

<振り返り>


 加藤さんの講義ののちに、進行役の坂井さんが振り返りを行いました。
「今日は、最終回なので、加藤さんの講義だけでなく、ここまでのプログラム全体を振り返ってみたい。皆さんは、きっといろいろな刺激を受けたこと思う」と述べた坂井さんは、これまでのプログラムについて簡単に振り返った上で、参加者たちに、「皆さんに覚えておいてほしいこと」として、以下の3つを提示しました。

1)見えていないもののなかに大事なものがあること

本当に中身として大事なものは何か? 皆さんが持っているもののなかで、何が一番いろいろなものに通用するのか。皆さんを競技者としてでも、それ以外の立場で過ごしているときでも、皆さんの強みとして輝くのはいったいなんなのか? それをしっかりとつくっていくのが、自分という人間を確立していくこと。それができていけば、講義で加藤さんが仰ったように、「競技者として終わったあと、どうしたらいいか」ということも、「競技者のときはこうして、終わったらこうして」というふうに分けて考える必要はなくなる。

2)知識を増やすことが自分を助ける

知識がすごく大事ということを再確認してほしい。例えば、2つの点で弧を描くのは難しいが、3つあれば、よりきれいに描けるようになる。さらに、中心の位置を推測できたり半径がどのくらいかがわかったり、円になった場合の面積を考えたりなど、1つ情報が増えるだけで、いくつもの新しい視点を手に入れることができる。知識もそれと同じ。知識の数が多いか少ないかで、わかることに大きな差ができることを覚えておいてほしい。「知っている」ということは、すごく皆さんの可能性を広げていく。

3)コミュニケーションをしっかりとる

知識を増やしていくにあたっては、まず、
・すべてが見えているとは思わないこと
・自分に見えているものと相手に見えているものは違うことを知っておく
・見えているものが本当にその通りなのかを疑うことも必要
・見えているものが増えれば(変われば)、その先が見えてくること
を理解しておくとよい。

 実際に、物事には、自分が見えているものが他の人には見えていない可能性があるし、その逆もある。また、ライバルが知っていても自分は気づいていないこともある。こうしたときに、コーチや先輩などとのコミュニケーションをしっかりとっていれば、自分が見落としていること、逆に自分がアドバンテージにできることを把握できる。1人で戦おうとするのではなく、コミュニケーションを大事にしてほしい。



取材・構成:児玉育美/JAAFメディアチーム

>>第4回リーダーシッププログラムレポート Vol.2はこちら
>>ダイヤモンドアスリート特設ページはこちら

関連選手

JAAF Official Partner

JAAF Official Sponsor

  • 国立スポーツ科学センター
  • JAPAN SPORT COUNCIL 日本スポーツ振興センター
  • スポーツ応援サイトGROWING by スポーツくじ(toto・BIG)
  • 公益財団法人 日本体育協会
  • フェアプレイで日本を元気に|日本体育協会
  • 日本アンチ・ドーピング機構