2018.10.18(木)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第1回 アジア大会総括と東京五輪への強化全体像(2)

「第1回アジア大会総括と東京五輪への強化全体像(1)」から



ジャカルタ・アジア大会を振り返って

1 麻場監督総括

──では、具体的な話に入ります。ジャカルタ・アジア大会の結果を踏まえて、強化委員会での総括が終わっているかと思いますが、どのような反省や意見が出たのでしょうか。まず、現地で監督を務めた麻場強化委員長から、日本チーム全体の感想をお願いします。

麻場一徳 強化委員会 強化委員長 今回のアジア大会は直前になっても種目別のランキングすら出ない状況で、目標設定が難しかったのですが、代表選考時のアジア・ランキング1位の種目(1位が代表本人とは限らない)5つのうち4つを金メダルの目標に掲げました。男子のマラソン、50km競歩、十種競技、4×100mリレーはランキング通りの結果です。それにプラスして男子200mと棒高跳で金メダルが取れて、計6個。これは、男子だけに限れば、中国、インドの5個を凌いで第1位です。我々の予想を上回る〝プラス2〟という結果は、大いに評価していいと思ってます。

その一方で、今回は銀メダルが2つと少なくて、銅が10個。4位、5位という種目を含めて、そのあたりをいかに「アジアの金メダル・レベル」に近づけていけるのか。それがこの2年間の大きなテーマだと思います。


──女子の金メダルがゼロ、銀と銅を合わせても4つというのが気になりました。

麻場 その点は現地でもメディアの方から指摘されました。女子の成績を思うように上げられなかったことは、大きな課題になってくると思います。今後のテーマで取り上げていただきます。あといくつか課題があって、その1つが暑熱対策です。これは河野ディレクターから話があると思いますが、ジャカルタの気候から、今度は東京の気候へどうスライドするか。全体的な傾向はだいぶつかめてきているので、それを個人にどうアレンジしていくのか。そういう取り組みが今後のテーマです。


2 トラック&フィールド

──山崎さんにはトラック&フィールド種目を細かく分析してもらいます。

山崎一彦 強化委員会 トラック&フィールド ディレクター どれだけ自分の力を出し切れたかという「達成率」の観点から見ると、やはり男子短距離が良かったのです。自己記録を100%とした場合、それにどれだけ近づけたかの割合ですね。4×100mリレーの金がフォーカスされてますけど、男子短距離は個人種目でもほぼ力を出し切れていて、トラック種目では良しとされる97~98%に達しています。フィールドは96%ぐらいの達成率が目標となると、跳躍は良かったのですが、投てきは89%と低かった。女子短距離も95%ですから、かなり低いです。数字上ですけど、力を発揮できたのは男子短距離、男女混成、男子跳躍ですね。力を出せなかったのが男女の投てき、女子短距離、ハードルということになります。

アジア大会ではこれぐらいの数字になるのですが、東京(五輪)に向けてとなると、例えば過去のトラックの入賞者は、自己記録達成率の平均がおよそ99.7%です。日本人のレベルだと余裕を持ってその場に臨めていないので、自己新を出すか、もしくは自己ベストぎりぎりのところまで持って行かないと入賞ラインに達しない。それは周知しないといけません。「98%で良かったね」というところで終わらせてはいけない、ということを今回感じました。現実的にはその風潮が少しあるのです。

その点、男子100mで自己タイの山縣亮太君(セイコー、10秒00で3位)や自己新記録(20秒23)で勝った200m の小池祐貴君(ANA)は評価できます。


──同じ環境、同じ気象条件で試合をして、達成率にそれだけ差が出るのはなぜでしょうか。

山崎 今、男子短距離は土江寛裕五輪強化コーチを中心に、陸連コーチングスタッフやパーソナルコーチとの連携が密で、誰がどういう状況かというのが共有できていました。みんなで海外転戦も積極的にしていますし、状況把握がかなりできていたということが1つ言えると思います。マイルリレーに、戦略的に200mの選手を使ったりなど、新しい試みも功を奏しました。 前から現場の人たちに話しているのですが、ただ合宿をやって「がんばろう」とかけ声をかけても成果は出ません。パーソナルコーチと密に連絡を取れていないところもあったのは事実で、そこはきちんとやらないといけないなというのが反省点です。


──世界というより、アジアのレベルできちんと結果を残さなければいけない種目もありました。

山崎 それができたのが女子ハンマー投です。勝山眸美さん(オリコ)がきちんと銅メダルを取ってくれました。逆に、女子やり投などは世界を見ていかないといけないのに、アジアで成績を出せなかった。となると、厳しめな評価になりますよね。

麻場 そういう種目も今度はワールドランキング制度になって、(出場への)可能性は高まっています。標準記録制ではとても手が届かなかったレベルでも、ポイントを加算していけば道が開けるかもしれません。そのあたりの戦略は、まだランキングの分析が途中ですし、全容もわかっていないところがあるので具体的な例示ができないのですが、陸連の強化としては道づけというか、アドバイスができるようにしていかないといけないなと思っています。


3 マラソン

──次に、河野さんには長距離・マラソンの評価をお願いします。


河野匡 強化委員会 長距離・マラソン ディレクター 先にマラソンからいきます。男子の井上大仁君(MHPS)は、アジアで金メダルを取ることを大前提にこの大会を選んだということで、戦前から「彼が金を取ったらひと皮むけるだろうな」と高い期待を持って見ていました。勝とうと思ってレースに臨んで、勝ち切ったというのは、大きな自信になるのではないでしょうか。ロンドン世界選手権の失敗(26位)を修正して、「アジア・チャンピオン」の勲章を得た井上陣営には、東京五輪を見据えた戦略がうかがえます。


──なにしろ男子マラソンの金メダルは1986年のソウル大会以来です。

河野 アジア大会は、勝ちにいってもなかなか勝てないレースが続きました。格下相手でも、しっかり自分のレースをして我慢すべきところは我慢して、勝負すべきところは勝負する、ということができなかった。今回の井上君のレースはエポックメイキングになると思います。


──女子は32歳の野上恵子選手(十八銀行)が2位争いを制しました。

河野 野上さんは春からトラックレースで自己新を連発し、調子良かったのですが、6月にちょっと脚がおかしくなって、練習が2~3週間ジョグだけになる時期があったのです。最初はそれを心配していたのですが、立て直しの過程をコーチがずっと報告してくれて、「これぐらい走れるようになりました」という動画まで送ってくれていました。最終的には「これならある程度行くだろう」と思って見ていました。

レース後、「なぜ(優勝した)チェロノ(バーレーン)に付いていけなかったのか?」と聞いたら、相手は世界チャンピオンですから「躊躇した」と言うのですね。結果論ですが、あそこでチェロノに付いていってもおもしろかった。記録的なものはまだないですけど、しっかりとメダルを取るレースをしていますから、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)のような勝負が優先されるレースでは侮れない選手になると思います。


──男子の園田隼選手(黒崎播磨)は4位、女子の田中華絵選手(資生堂)は残念ながら9位に終わりました。

河野 マラソンに関しては、男子の2人と野上さんは合格点ですが、田中さんは体調の経過報告に精度が欠けていたので、パーソナルコーチに苦言を呈さざるを得なくなりました。東京五輪に向けての補欠の解除の仕方には参考になったのですが、そのあたりのことは現場に何度も話していたことなのです。それでも精度を欠いたのは不本意ですし、五輪では早めに故障リスクの芽を摘んでいきたいので、ここであえて言っておこうと思います。

故障したらすぐに外す、という意味ではありません。今回の田中さんだったら、まだMGCの資格を取ってないのに、無理して出て故障が長引いたら、これからの負担が大きくなってきます。戦えないのがわかっているのに出ることが、本人にも代表チームにもマイナスになる場合がある。そういう判断をスタッフがしっかりすべきだったのでは、ということです。


4 長距離

──男子の長距離種目は3000m障害のみでしたが、塩尻和也選手(順大)が銅メダルに食い込みました。


河野 自分がやっていた種目ということもあって3000m障害は私がサポートしたのですが、塩尻君だけでなく山口浩勢君(愛三工業)も調子が良くて、山口君はメダルを狙っていった結果の打ち上がり(9位)でした。塩尻君は、私が言うのも何ですが、きちんと3000m障害をやれば日本記録(8分18秒93、2003年)に届くと思います。これから何を専門にするか、です。


──10000mの可能性はどうなんですか。

河野 彼は能力の高い選手ですが、ラストのスピードが課題なので、3000m障害をやりながらそこを鍛えていけば、のちのち10000mにも良い効果が出ると思います。ハードルを跳ぶことで筋力なり、動きの変化にも好影響を与えて、それが先々マラソンにもつながると思います。心肺機能は抜群です。


──女子長距離はメダルに届きませんでした。

河野 女子の5000m、10000mはもっと期待していたのですが……。10000mの堀優花さん(パナソニック)は仕上がりがとても良かったのに、何であんなレースしかできなかったのか、我々もビックリしました。1人で行っても自己新が出るような練習をしていたのです。ああいう緊張感のある場面に対応しきれなかったのかな、ということぐらいしか考えられませんね。

5000mの鍋島莉奈さん(日本郵政グループ)も同じです。勝とうと思って自分のレースを組み立てる戦略で臨み、どっちみちラストでやられるから速いペースにしようと思ったら、逆にもっと速いペースにやられて、急にロックがかかったようになりました。女子長距離はレースへの対応力がまだ乏しいので、これは苦い経験として、しっかり次につなげていければいいのかなと考えています。


──男子の5000m、10000mはアジア大会史上初めて派遣ゼロでした。

河野 派遣設定記録を下げれば出られたのですが、上のカテゴリーのままにしたので、誰も破れませんでした。それが現状だという事実を踏まえて、男子長距離は根本から考えていかないといけません。これは私が思っていることなのですが、今の日本の長距離は〝ペース走文化〟なのです。ペースが作られた〝記録会文化〟というか。イーブンペースで行って記録を出すレースは世界にないので、そういったところも変えていかないといけない。これは関係者に再三再四言っています。

ともかく、来年のドーハ(世界選手権)から五輪につなげていかないと、東京(五輪)にも出場者がいなくなってしまいます。今、トラックをやっている選手がもっと成長してきてくれることを期待しています。

「第1回アジア大会総括と東京五輪への強化全体像(3)」に続く…


構成/月刊陸上競技編集部

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