2019.07.26(金)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第8回 世界リレー横浜大会を振り返って(1)

過去3回はバハマ・ナッソーで行われていた国際陸連(IAAF)主催の世界リレー(World Relays)が、今回は日本開催となり、5月11日~12日、神奈川県横浜市の横浜国際総合競技場で行われた。大会は予想以上の盛況となり、両日とも1万5千人以上の観衆がスタンドでリレー競技を堪能した。フルエントリーした日本は、金メダルも期待された男子4×100mが予選でバトンパスミスによる失格と思わぬアクシデントに見舞われたが、男子4×400mが4位に入賞してドーハ世界選手権の代表権を獲得。また、東京五輪でも正式種目に入っている男女混合4×400mは、3分19秒71の日本新記録を樹立して全体で11番にランクされ、12位までに与えられるドーハ世界選手権の代表権を得た。

来年に迫った東京五輪を見据え、強化委員会として世界リレーの結果をどう受け止め、収穫と課題は何だったのか。大会の監督を務めた山崎一彦ディレクターと麻場一徳強化委員長、そして男子短距離担当の土江寛裕氏、女子短距離担当の瀧谷賢司氏に総括をしてもらった。

●構成/月刊陸上競技編集部

●撮影/船越陽一郎

 
※「月刊陸上競技」にて毎月掲載されています。


(左から)
山崎一彦:強化委員会 トラック&フィールド ディレクター
瀧谷賢司:女子短距離オリンピック強化コーチ
土江寛裕:男子短距離オリンピック強化コーチ
麻場一徳:強化委員長
 

 

会場の雰囲気に感動


──今回のテーマは「世界リレーの総括」ということですが、まず大会を終えて、全体の感想を強化委員長からお願いします。

麻場 日本で初めて行われた世界リレーですが、想像以上に日本のみなさんに興味・関心を持っていただき、会場に足を運んでもらいました。私は新横浜への帰り道、たまたま観衆のみなさんの波と一緒で、周囲の声に耳を傾ける機会があったのですが、「良かったね」「おもしろかったね」と口々に言ってくれていました。それを聞いて、本当にこの大会を横浜で開催していただいて良かったなと思いました。いろいろな関係者のご苦労があったと思いますが、これをきっかけにして、ますます陸上競技のおもしろさ、リレーのおもしろさを日本のみなさんに伝えられたらいいなあと思っています。

競技の面については、男子4×100mは残念な結果でしたが、それを除けば非常にいい成果が得られたのではないかと思っています。世界選手権に駒を進められた種目も、日本記録を更新した種目もあります。男女混合の2×2×400mやシャトルハードルなど、当初は「エントリーをどうしようか」と検討された種目も、新たなアスリートの可能性を開発することができました。

男子4×100mのミスについては山崎監督、土江コーチが大会期間中に説明している通り、東京五輪に向けてある意味必要な失敗だったのかなと思いますので、ネガティブな感情は抱いておりません。






──山崎ディレクターは大会の日本チーム監督という立場でしたけど、どんな感想をお持ちですか。

山崎 結果の分析は男女それぞれの担当コーチがされているので、のちほど細かい話が出ると思いますが、今大会のコンセプトは「東京五輪に可能性をつなぐバトンパス」ということだったんですね。可能性とは何かと言うと、「挑戦」だと思います。男子はもちろん「金メダル」に向けての挑戦ですし、女子は東京五輪に「出る」「出ない」の挑戦。違いはありますが、その「挑戦」は男女共通でやっていこうということで、昨年より具体的な戦略を立てていけたと思っています。結果はいろいろですが、世界リレーがあったお陰で、そういう戦略を立てて臨めたということですね。

男子は土江コーチを中心に、4継で新しい可能性を見つける挑戦があって、残念ながらバトンパスで失敗してしまいました。マイルリレーは「ここ10年ぐらいの課題をいっぺんに払拭しよう」という思いで臨み、前半の入りを重視する策をコーチ、選手で明確に共有して、それが4位という結果につながったと思います。まだまだ走力には課題がありますが、戦術を浸透させることができたのは土江コーチのリーダーシップのお陰だと思いました。逆に4継の失敗は課題が出て、ここ数年うやむやにしていたミスに気づけたのは良かったと思います。「いい失敗」という言い方は、来年、金メダルを取るまで棚上げにしておいた方がいいですね。

女子については、昨年末から今年にかけて「女子リレープロジェクト」を始めて、本当にマイナスからのスタートで、瀧谷コーチも苦肉の策を立てながらやったというのが現状です。ここ数ヵ月間でやっと「戦おう」という領域まで持ってこられた。実力ということでは、個々の実力は出せたのではないでしょうか。今の選手たちが、初めて「世界」を意識した大会になったと思います。今までは「厳しい」とも思っていなかった、というのが私たちの見方でした。

──普段やらない、4継とマイル以外の種目が、観衆を喜ばせていました。

山崎 先ほど委員長から話があったように、最初は「どうするんだ」とネガティブな意見もある中で、初参戦の種目があったんですけど、フタを開けてみたら結構おもしろかった。一番は私たちより観に来てくれた人たちが「リレーっておもしろいね」と思ってくれたこと。タイム云々ではなく、陸上競技のそもそもの楽しさを浸透させる第一歩になったのかなと思います。これをつなげたいですよね。強化委員だけの話ではどうしようもないですが。私たちも今回試合をして、とても気持ちが良かった。日本でこんなに気持ち良くできる大会があったんだ、と結構感動しました。

──会場の雰囲気がすごく良かったですよね。外国人のお客さんがかなり入っていて、それに引っ張られるように盛り上がっていました。

山崎 4月の強化選手研修会の時、選手たちに東京五輪について「できること、できないこと」のディスカッションをしてもらったんですけど、「ヨーロッパの試合と日本の試合は観衆の盛り上がりが違うけど、東京五輪ではヨーロッパの試合のようにできるのか」という声が短距離から挙がっていました。そういう心配を選手側がしていたんです。今回の世界リレーを終えて、また選手たちに聞かないといけないんですけど、少し安堵するような横浜の雰囲気でしたね。



 

男子4×100mのバトンパスミスについて


──では、男子の方から種目ごとに話を進めたいと思います。多田修平(住友電工)、山縣亮太(セイコー)、小池祐貴(住友電工)、桐生祥秀(日本生命)と新オーダーで臨んだ4×100mは、予選の3~4走間で受け渡しのミスがあり、失格になってしまいました。決勝に進めないだけでなく、記録がつかないので、この大会で10位以内に与えられるドーハ世界選手権の代表権を得ることはできませんでした。

土江 レース後に選手たちと話したのは、「失敗から何を学ぶか」ということでした。振り返ってみると、レベル的にここで金メダルを取れたと思うんですね。それを取り損ねたことによって、我々としては強烈に殴られたような気持ちでした。桐生がレース後に「気の緩み」と言ってましたけど、我々としてはしっかり準備してきたつもりだったんです。しかし、この結果でいろいろといい加減になっていた部分があったんだと気づかされました。

思い起こせば、2010年の広州アジア大会でも、2~3走で同じように受け手が前走者の手をつかんでバトンを落としてます。2015年の北京世界選手権では、4走が早く出過ぎたと思ってスピードを緩め、3走との距離が近過ぎて一発で渡らず、やはり予選敗退でした。その都度「ジョギングと流しの受け渡しを徹底してやりましょう」と申し合わせ、その方向でやってきたんですけど、やはり年数を経て選手も入れ替わり、危機感が薄まっていたんだと思います。

5月19日のゴールデングランプリ大阪(GGP大阪)の前にミーティングをして、過去の映像を見たんです。2010年も2015年もその場にいた藤光君(謙司、ゼンリン)が、「そんなことがあったね」と言いながら、当時の状況をみんなに話してくれました。そういう意味で、日本チームが大事にしていた部分をもう一度見直す、きっかけになりました。おそらく東京五輪を終えてから振り返る時に、大きな分岐点になってくるのかなと思います。

ここのところ非常にいいかたちで個人のレベルが上がってきてるので、「個人の走力アップ」を目標に掲げて強化してきた手法は間違ってなかったんですけど、もう一度「日本のバトンパスの基本は?」という話をして、作り直すきっかけになったと思います。

──今季はリオ五輪銀メダルメンバーのうち、山縣選手とケンブリッジ飛鳥選手(Nike)は脚の違和感で出遅れ、飯塚翔太選手(ミズノ)もドーハ・アジア選手権(4月21日~ 24日)の直前に虫垂炎の手術をして今大会も出場できませんでした。

土江 ケンブリッジ君の調整の遅れは我々としても誤算で、イレギュラーな部分でした。ただ、オーダーを組み替えないといけない中で、小池君という3走が出てきて、桐生を4走に回せた。そして、1走を多田君にして、山縣君を2走に。もう1人、白石君(黄良々、セレスポ/4月28日の織田記念100mを10秒19で制覇)がいたので、どう使っていくかというように、バリエーションを増やすきっかけになったと思います。

結果的に失敗しましたけど、1~3走まではすごくうまくいきましたし、3~4走のバトンパスを除いては完璧なレースができました。この先、サニブラウン・アブデル・ハキーム君(フロリダ大)をリレーに迎え入れる時に、こうやってバリエーションを増やせるというのは、我々にとって大きな収穫になりました。

── あれだけ3~4走でタイムロスがあっても、いったん38秒59というタイム表示が出ました。みんな、速かったですよね。

土江 タイムで言うと、小池君はリオ五輪の時の桐生に匹敵するか、それ以上のタイムで走ってます。2走の山縣君もリオ五輪の飯塚君と同じ。1走の多田君は、リオの山縣君は強烈なので、それに比べると落ちるんですけど、でも良いタイムで走っていますね。

──桐生選手はバトンで失敗して立ち止まってからですけど、そこからの勢いはすごかったです。

山崎 本当にすごかった(笑)。

──失敗から8日後のGGP大阪では、まったく同じオーダーで臨んで、38秒00の今季世界最高タイムで優勝しました。

土江 先ほども言いましたけど、GGP大阪の2日前に、リレーメンバーだけでなく男子短距離に出る全員を集めてミーティングをしたんです。「日本のリレーはこういうかたちだ」というのを再確認したかったんですね。選手たちは「面倒くさい」と思わず、「バトン練習はきちんとやらないといけない」という危機感を持って集まってくれたように感じました。

──そこで過去の失敗例の映像を見せたのですか?

土江 レースを控えてそれがいいのか迷ったんですけど、「このチャンスしかないな」と思って見せました。その後、「バトンは基本、こう握って、こう渡す」と意見を交換しながら、みんなで渡す練習をやっていましたので、選手たちも「改善していこう」という気持ちになってたんだと思います。

第8回 世界リレー横浜大会を振り返って(2)』に続く…

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